「獄寺、傘入んねぇの?」
「…………」
「マジ濡れるぞ?」
「………………」
「ホラ、入れって」
「うるせぇ…………」








今日の天気は最悪だった。
天気予報は外れることなく、一日中雨天。
よい事と言えば、サボろうとしていた体育が雨でビデオ鑑賞に切り替わった事だけ。そして、それで十代目が喜んでいたっけな。
山本と言えば、体育好きだから、少し残念そうな表情だったかもしれない。
正直、ざまぁみろ。
……と、それはいいんだけれども、下校時刻になってもまだ、雨は止んでいなかった。
それどころか、さっきよりも雨音が強まっている。

十代目は、先生に呼び出し食らって、職員室に消えてしまった。
俺は、待っていようと思ったけど、十代目があの野球バカと一緒に帰っててとかいうから、仕方なくそうしてやることにした。
十代目に、仕方なく、ではなくて野球バカの方に仕方なくだ。
丁度、傘を持ってきていない俺に比べ、あいつは持ってきている。どうにかして借りていけばいい話だ。
俺は、ほっとして山本に話しかけた。


「傘、貸せよ」


たったの一言。それも不躾な一言。
山本は、帰るところだったらしく、傘を片手に驚いた顔で俺を見つめた。


「なんだ、獄寺も今かえんのか?」
「何だよ。早く貸せって」


とぼけたツラで教室から出ようとする山本を慌てて引き戻すと、傘を催促しながら手を差し出す。
それは、傘を受け取るつもりで出したわけで、別にアイツに手を引かれるために出したものではなかったのに。


「お、おい! 離せ!」
「帰るんだろ?」


俺は呑気な顔で腕を引っ張って昇降口まで連れてゆく山本を睨みながら腕を振り回す。


「………帰んないのか?」
「帰るっての! 傘、貸せよ」
「レンタル料金5000円なんて……いててて」
「ふざけんな!」


やっと振りほどいた手を、次は山本のくだらない冗談に鞭打ち。
わざと山本は背後に傘を隠し持ち、俺の反応を見て楽しんでいるようだった。
凄く、腹立つ。


「早く貸せっての!」
「俺が濡れるだろ?」
「てめぇはいいの! ホラ、早く」
「いやだよ。一緒に帰ればいいだろ?」
「はぁ?」


苛立ちながら、山本の背にある傘に伸ばしていると、俺から離れた山本は傘を開き、手招きをしてきた。
昇降口からは勢いの増す雨が見える。それでも、俺は山本の手招きを拒否した。


「誰が入るかよ」
「丁度大きい傘持ってきたんだ」
「はいらねぇって」
「二人までなら余裕で入るぜ」


全く人の話を無視して、大きい傘を広げたまま俺を手招きし続ける。
俺は、靴をはいて外で待っている馬鹿な男の横を普通に通り過ぎてやった。
案の定、後ろから追いかけてくる山本の足音が水溜りの音と共に聞こえてきた。だから、わざと足を速めてやる。


「お、おい……」
「…………なんだよ」
「獄寺、傘入んねぇの?」
「………誰が入るかっての」


追いかけてくる山本に踵を返して校門を走って出る。
水溜りが跳ねて冷たいし、雨は強まるばかりで本当は山本の傘に入れてもらいたかったのかもしれない。
それでも正直に言ってなんかやらなかった。


「マジ濡れるぞ!?」
「…………着いてくんなよ」


いくら俺が機嫌悪そうに振舞っていても山本は根気よく後ろをついてきて、俺の心配ばかりしている。



「ホラ、入れって」


本当、お人よしだな。この バカ。


「…………うるせぇ」


あまりにも、バカでムカつくから、俺はゆっくり振り返って立ち止まり、睨みつけてやると、追いかけてきた山本の傘に入ってやった。


「…………俺が止まったらお前が勝手に俺を入れたんだからな」
「ははは。そういうことにしてやるよ」
「ああ? なんだと!?」
「素直になれよ。獄寺」



本当に、バカでむかついたから 図々しく家まで送ってもらってしまった。
それから、嫌いだから山本の悪口を言いながら山本の家まで行ってしまった。

もう、その時には晴れて雨など降っていなかったのに、俺は差しっぱなしの傘に入ったままだった。



FIN



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山獄にとっても悶えていた時期の小説。

/修正09/01/15


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