いつからだろうか。このような感情を君に抱き始めたのは。
何かいつもと違う感情なのだが、実のところ自分には理解出来なかった。それが何の感情であるか。
多分、心の奥では分かっていたのだろう。
只、それを未だ本気で受け止められずに戸惑っていた、それれだけのこと。
私が考え事をしていると、思考の合間に君がいて。どうしようもなく苦しくなってしまうのだ。

 何故なら、君は私のこの気持ちを知ったりしたらどう思うのだろうか?
そう考えるともう、前へと進むことが出来なかったのだ。
それに今の関係以上を持つことは有得ないのだ。
押えられないこの気持ち、伝えてもいいのだろうか。

この穢れたカラダでもまだ、微笑んでくれるのだろうか。









〜君は微笑んでくれるのだろうか〜







午後四時頃。

第三法廷、判決は非常に危ないところで、最後に切り札として賭けていた証拠品のおかげでなんとか無罪を勝ち取り、裁判は閉廷。
勿論、弁護を担当したのは今、一番有名となっている成歩堂龍一だった。
彼でなければ最後の最後で逆転は難しかっただろうと思われた。
何はともあれ、無事、無罪になった依頼人の女性はもう諦め掛けていた無罪判決に涙しながら成歩堂にずっとお礼を言い続けていたよう。

私は今日、この裁判を傍聴席で聞いていたのだが、相変わらずスリルのある裁判だった。ふと、被告席の依頼人を見ると、それはもう冷や汗びっしょりで何かを懸命に呟いていた。
そして、勿論弁護席の成歩堂なんて更に冷や汗を垂らしている。
休暇が出来たのでひっそり来て見たものの、これは心臓に悪い裁判に違いなかった。
私は動悸を押えつつ、あのオトコの仕事ぶりを見届けると、その場を後にした。

やはり、腕だけは確かなのだな。あそこまで追い詰められて最後の最後で逆転とは・・・。




御剣は、期待通りの結果に微笑して、法廷内を歩いていると、突然背後から声が掛かった。
其の時、丁度成歩堂を見つけた。だが、彼の目の前には先程無罪判決を受けた依頼人の女性がひっきりなしに話しかけている。
折角、見ていたことを言って驚かせようと思ったのだが、先客がいるのでは後にしようと、まずは後ろを振り向く。

「あ! やっぱり御剣検事だったんですね!」
「ム……君は確か、成歩堂の所の……真宵くん、だろうか」
「あ、はい! ……ところで、何をしているんですか? 今日の担当検事さんは違ったような……」
「いや、今日は傍聴席にてあの男の焦った顔を見ていたのだ」
「来ていたんですか! それ聞いたらなるほどくん、複雑な顔しながら心の中で凄く喜びますよ!」
「そ……そうだろうか」

じゃぁ、今度から時々見に行ってみようかと考えていたら、突然彼女の表情に真剣味が現れ、そして、彼女は小さく私の背後に人差し指を向けた。
それは成歩堂とあの女性だった。

「あの二人がどうかしたのか?」
「……あの女の人……感じ悪いんです。実はなるほどくん、どこか喫茶店みたいなところに誘われてるんですけど、隣にいた私が邪魔だったのか追い払うような目つきで見てきたんです」
「それで成歩堂は何と?」
「いえ、さっきっから断ってるのにあの女の人がしつこく言うからまだ……これから帰る所だったのに……」
「……」

もう一度さり気無く背後を振り返ると成歩堂は困った顔で断ろうとはしているが、女性のほうに押されているようだった。
向こうはこちらに気づいていない様子。特に女性の方はいかにも男を連れ出すのが上手そうな顔をしている。
目つきは悪く、タバコのケースをポケットに入れているところから見ると何本か吸いそうな人だ。そして、厚く塗られた化粧には自分として受け付けない何かがあった。
その女性は成歩堂に話す暇を与える間もないほどに喋り続けている様に見える。
このままだとお人好しな彼なのだから、断れずに着いて行ってしまうだろう。

「……真宵くんは一人で帰るのか?」
「そうなりますよね」
「私が彼を連れてこよう」
「……え」

真宵は驚いた顔で口を開けっ放しだったが、どうやら連れてきて欲しいのは山々らしい。
実のところ、御剣の方こそ成歩堂をあの女性と二人きりにするのだけはイヤだったのだ。
御剣は、口を開けたままの真宵を後にし、大股で成歩堂の元へと歩いていった。


「成歩堂」
「……み、御剣!なんでここに……の前にちょっとこの「悪いわねぇ……御剣検事さん。成歩堂さんは私と今から出かけるのよぉ」
「……それは本人の意思もあるのか?」

無駄にのろのろとした話し方、イントネーションに腹が立ち、今すぐ怒鳴りつけてやりたかったが何とか成歩堂のほうに目を向けて必死に堪えておく。

「……なによぉ……怒らないでよね。だってさぁ? 成歩堂さん、さっき行くって言ったわよね」
「え? 僕ですか? あの……それが僕「成歩堂さんがぁ、そこの店行ってみたいってゆったからぁ私……」
「い、いや、その行きます行きます」
「……成歩堂、何を言っている」

女性は悲しそうな表情をし、涙目、上目遣いで成歩堂をちらちらと見ている。
優しい彼だからそんな表情をされたら行くしかない、そう考えてしまったのだろう。
……嫌な女だ。

「そうか……」
「じゃぁねぇ? 検事さん……」
「御剣……」
「行きましょぉ。私、たくさん食べちゃうからね?」
「…………っ」

御剣は歯を食いしばって二人が目の前から去ってゆくのをじっと我慢した。
成歩堂の手を無理やり引く行為にはとても悔しかったのだが、自分の意思となっては止めることは出来なかったのである。

「御剣検事……。やっぱりなるほどくんは弱いですよねーーー」
「押しに、な。連れて来れなくてすまないな」
「いえいえ。でもはみちゃんにあとで叩かれるのを思い浮かべると……あ、では、もう帰るので御剣検事もお気をつけてくださいね」
「……あ、うム。真宵君も気をつけて」

真宵の方は別に成歩堂のことを心配しているのではないらしい。あの、嫌味な女性の方に成歩堂が一緒には行けないということを言って貰いたかった様だ。
がっかりした顔が見たかったのだろうか。
御剣は眉をしかめ、手を振って走り去る真宵に自分も手を軽く振ると、あまり考えずに帰る事にした。
 其の時、頭の中に過った不安、成歩堂に何も無ければいいのだが・・・・・。

しかし、そう簡単に事が終わるわけには行かなかったのだ。


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