小心者
小心者
僕は、窓の向こうを見据えると深く頷いた。
見事、大雨だと言い張っていた天気予報も外れて、雲は多いが、時々晴れ間が見えるくらい。
これなら大丈夫だろうな。
沈黙
「なるほどくん、今日はどちらに向かわれるのですか?」
「んーー、今日は春美ちゃんが喜びそうなところだよ」
「わぁ。それはとてもとても楽しみです。ですよね?真宵さま」
「そりゃぁね!もうこの日を楽しみにしていたんだから!」
「まぁ、御剣のヤツたまにはいいところあるからさ」
僕は目を輝かせながら、目の前でずっと落ち着かない様子の春美ちゃんと真宵ちゃんにそっと微笑みかけた。
僕の隣にいるイトノコ刑事なんか、其の二人よりも大分、喜んでいるようだった。
安月給のため、食べ物は愚か、出かけることなど出来なかったのだろう。
それに比べてイトノコ刑事の隣でつり革につかまりながら静かに外の景色を眺めている御剣は、全く逆の生活をしている。
この前なんか、少し話がしたかっただけなのに高級レストランに予約まで入れてしまう始末。
今日も向かっている先が遊園地であることで本当に喜ぶものと言ったら真宵ちゃんと春美ちゃんなのに、自分のためにでなく、其の二人が喜ぶと思って、二人の分は出すから、行こう。
そんな話をしてくれた。
勿論、イトノコ刑事の分も出してあげるのだろう。
「本当、感謝するよ。御剣」
「いや、礼には及ばない。二人には少々世話になったのでな」
「・・・やっぱり金持ちは違うんだな」
「男糸鋸圭介、一生忘れないっス!感激ッス!!」
イトノコ刑事は涙を溢れさせながら感激している。
僕も御剣の優しさを感じた時なのだが、何故僕だけは自腹なんだろうか。
給料をちゃんと貰っているからなのだろうが、こんな時だけ払ってくれないと何だか仲間はずれみたいじゃないか。
別にそれは御剣のせいとかそういうわけではないが、このガタガタ揺れる電車の中で悠長に立つ彼を、軽く睨みつけてやった。
電車の中は人があまりいなかった。それは平日であるからだろうか。特にこの車両には乗車客が少ない気がした。
席も一応空いていることは空いているのだが、御剣が涼しげな顔で立っているから思わず自分も座る気にはなれず、つり革につかまる手に力を入れて頑張っているのだ。
電車に乗車して一時間ちょっと。あと少しで着くはずなのである。
外を見ると町並みはもう少しで遊園地の風景が見えてきそうな情景であった。
「わぁ。大きな建物が沢山あるのですね!」
「もう少しだよ。はみちゃん」
「待ち通しいッス!今すぐ降りて行きたい位ッス!」
(イヤ、危ないから)
それより、周囲の視線が痛く感じるときがあった。
それはイトノコの張り切りぶりに相応した声の大きさ、だろうか。
僕もちょっとそれについて思っていたところだ。
(・・・・・ま、いいか)
午前十一時二十五分。
「きゃぁ!真宵様!変な格好のうさぎさんが歩いております!」
「アレは此処のマスコット、みたいなのだよ。はみちゃん、あれと写真撮る?」
「そ、それなら自分が写真撮らせてもらうッス!」
平日の割には人は意外に多くてチケットを買うのに少し時間が掛かったのだが、なんとか入園でき、安心する僕達。
春美ちゃんは入園するなり、凄い勢いではしゃぎまわっている。まるで、動物園の檻から放たれた猛獣のようだ。
そんな春美ちゃんを慌てて追いかける真宵ちゃんと、其の二人のお守り役を御剣に任されたイトノコ刑事が必死に後を追いかけていた。
「此処は自分に任せてお二人で楽しむといいッス!」
なんて言ってくれたからあの、はしゃぎすぎた春美ちゃんたちと合せなくて済むと安堵の息をつく。
あれについてなんか行ったら筋肉痛も確実と言うところだろうか。
僕は、元気に走り行く三人を遠めに、隣で静かに歩く御剣に遊園地内の地図を手渡す。
「さて、僕達も来たからには何か乗らなきゃね」
「・・・何だか、こういう気分は久しぶりだな」
「・・・・まぁ、僕も御剣がどんな気分かはわからないけど、何かそんな感じ、かな。さ、どれ乗りたい?」
何か懐かしい思い出でも思い出したのか、微笑ましい表情を見せる御剣につられて、微笑すると、少し戸惑っている御剣の手を取る。
御剣の手は暖かかった。僕の手が少し冷たい分、丁度いいくらいだと思う。
そんな呑気なことを考えている成歩堂に比べ、先程まで冷静な振りを装っていた彼の目には焦燥の色が浮かんでいた。
少し、顔が赤くなっているのも気のせいではない。
「な、成歩堂・・手を繋ぐというのはなんというか・・・・」
「何だよ御剣、親友じゃないか」
「・・・・・それはそうなのだが」
御剣が手を繋ぐことに抵抗を見せたのは、きっと先程から前にいる男女カップルが手を繋いで歩いているからだろうか。
少しの間、複雑な表情をしていた御剣だが、僕がしっかりと握っているとやがて諦めたらしく、大人しく僕に連れられている。
暫くは、替わった模様の店などを見て楽しんでいたのだが、そろそろ何かアトラクションでもと御剣に再び話を振ろうと思ったとき
御剣が、さっきまではごみのようにいらないもの握るかのよう、地図を握り締めていたのだが、突然僕の眼前に出してきた。
僕が、無理矢理手を握っているので、指はさせないが、御剣はアトラクションの名前をボソっと呟くと、どこか空でも見ているのか
遠くに視線をやってしまった。
「御剣、こういうの好きなんだ。さ、行こうか」
「う・・・・うム」
自分から乗りたいといってくれた御剣に嬉しくて笑ってしまうと、御剣の方は何故か其の笑いを違う捉え方をしたみたいで
ふてくされた顔になると、どうせ子供染みた物に乗りたいのだよ私は・・・とか何とか行って逆に僕を引っ張って強引に其の場所へと
連れて行かれた。
僕は、其の姿がとても面白くてついには噴出してしまう。
「本当、御剣って面白いんだなぁ―。法廷でもあんな堅いこと言わないでさぁ・・・」
「・・・法廷で貴様のようにふざけるヤツがあるか」
「なんていうか、一番ふざけてるように見えてしまうのは裁判長だよな」
「・・・・確かに、そうかもしれないな・・・」
僕は、自分にかかった疑惑のようなものを適当に裁判長に移して、納得させておくと、係員にチケットを見せ、ゲートを通ると
いよいよ今日始めての遊園地内での乗り物に腰をおろした。
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